1.簡単な自動車運動学
○運動力学その1:車の運動性能とタイヤ

 『私の愛車348でサーキット、例えばFISCOでF40に勝てる』と言ったら信じますか?
 『そんな筈ない。何馬鹿なことを言ってるんだ!!』と思うかもしれませんが、348にスリックタイヤを、F40にはチョット空気の抜けたテンパーライズドタイヤを履いてもらったらどうでしょう。
 どんなに高性能な車でもタイヤの性能以上のパフォーマンスを発揮する事は出来ません。
 路面とタイヤ間に発生する摩擦力の合計と車体に掛かる慣性力とのバランスがその車の運動性能を決めます。
 そう、タイヤって自動車運動力学の基本です。


1.摩擦係数と摩擦力

 摩擦係数には、静止摩擦係数と動摩擦係数があります。
 接触する面性状にもよりますが、静止摩擦係数に比べ動摩擦係数は小さく1/10位になる場合もあります。
 発生する摩擦力は、摩擦係数×接触面積×抗力(押付ける力)で求められる事も理科で習いました。

 タイヤの場合、グリップ走行が静止摩擦係数領域、ドリフト走行が動摩擦係数領域になります。
 タイヤと言うかゴムの特性を補足すると、静止摩擦力から動摩擦力への境付近の動摩擦領域、つまり滑り始めたギリギリの狭い範囲で最も大きな摩擦力を得られます。
 それともう1つ。
 ゴムのような弾性体は強く押付けすぎると摩擦係数が下がるという面白い特性もあり、押付ければ際限なく摩擦力が増大する訳ではありません。


2.ブロックパターン

 路面上に不純物、水や砂や油分など、が無ければ設置面積が大きい方が大きな摩擦力を発生できます。
 レースで使われるスリックタイヤの様に溝の無い全面接触が最適です。
 しかし転がり抵抗の小さい不純物、水や砂埃が路面上にあると、タイヤが浮き上がって路面と接触できずに摩擦力が発生しません。
 
 サーキットの路面と違い一般道路は不純物が一杯です。
 そこで砂埃や水溜りがあってもタイヤが路面に接触できるように考えられたのが『溝』です。
 回転方向指定型タイヤの溝模様=トレッドパターンは、タイヤの接地面中心にある水をタイヤの面圧を利用して効率的に外側に排除する優れものです。
 しかし短い時間で接触面を観察すると、ゴムと溝が交互に路面に接触しています。そしてゴムが路面に当たる瞬間はパターンブロックの角が叩き付けられる構造なので、これがロードノイズの発生元になります。
 ノイズも常に一定の間隔で発生する単調な振動になると人は感覚的に不快と感じます。
 また物理的に共振が起り易くなってしまう為、リズムがズレるようにブロックパターンは作られています。


3.摩擦円
 
 左の図は摩擦円です。
 タイヤの接触面に生じる摩擦力は前に書いたように
 『摩擦係数×接触面積×抗力』で決まります。
 この式にはベクトル成分はありません。つまり摩擦力はタイヤを滑らそうとする方向の逆向きに発生しますがどの方向でも同じ最大摩擦力になると言うことです。
 つまり最大摩擦力を前後左右の大きさで線を引くと図のような『円』になります。
 
 正確には、接地面積や抗力、摩擦係数も刻々と変化する為、視覚的なイメージですが。
 
 摩擦円を見ていると、速いドライバーはタイヤの性能を有効に引き出している、つまり左記摩擦円の赤いエリアを巧く使っていると言うのが判ります。
 減速時のフルブレーキで感じるG(慣性力)を保って旋回に入り同じG(遠心力)をスムーズに感じながらコーナリングし、更にそのGで加速していくという奇麗な模様のG曲線を描くはずです。ミツバチ・ダンスのイメージです。

 <ミツバチ・ダンス>
 右コーナー通過時にタイヤが発生するコーナリングフォース(向心力)を図示化すると左図のイメージです。
 フルブレーキングで最大グリップ領域まで使用し、そのままスムーズな旋回に入り最大グリップを維持したままコーナリングした後フル加速で立上がる。
 この最大グリップを維持するコーナリングには、前輪がグリップを失う限界を探るステアリング操作とグリップを駆動力でコントロールする為のペダル操作を正確に素早く行うことが必要です。そのテクニックが有名な『セナ足』ですが、言うより遥かに難しいこのテクニックができる人は管理人の憧れです。

 私達は通常青い領域で走っている訳ですが、この図を思い浮かべながら走ると運転がスムーズになり、同乗者からの好感を得られます。


 この時にドライバーが感じるGを図示化すると左図のようなイメージです。
 このG(コーナリングフォースと釣合う慣性力)の方がイメージをつかみやすいですね。

 某漫画で豆腐屋のオヤジがコップに水を入れて言った一言、
  『コーナーで、コップの淵に沿って水をまわせ』とは、正にこのGを視覚化しています。
 実に見事な表現だと思いました。




4.メカニカルグリップ
 
 レース用車両の解説などでこの言葉を見るかもしれませんが、空力による補助(ウィングのダウンフォース)無しで車が本来持っているグリップの事をメカニカルグリップと言います。

 F−1やスーパーGTなどのレースを見ていると、同じタイヤなのにコーナーの速い車と遅い車があります。
 特にGTカーを間近に見ると市販の車と似ているだけで全く違うことに気付くと思います。
 そう、車高、特にボンネットの高さが低いんです。
 500クラスの国産車は全てエンジンの搭載高さと前後位置を変更しています。それは重心を低くして前後及び左右のタイヤ荷重バランスを取る為です。
 左右の荷重配分は旋回時の遠心力による荷重移動なので車体の重心高さが非常にシビアに関係します。
 重心が高いと旋回時の遠心力が同じでも車体を傾ける起振モーメントが大きく傾き易くなる為、外側タイヤの荷重が増え内側のタイヤが浮き上がります。
 タイヤが浮くと抗力と接地面積が減少しグリップは無くなります。そして内側タイヤが失ったグリップを外側タイヤだけで踏ん張る結果タイヤは早く磨耗します。
 
 もう判ると思いますが、重心の高い車は外側タイヤの負担が大きく早く磨耗してしまうのにコーナリングフォースが少ないという救いようの無い車なんです。
 ポルシェは車高が高いと思うでしょうが、あの伝統の平べったい水平対抗エンジンを搭載する車体の重心は低く、コンパクトで軽い車体と相まって素晴らしい戦闘力を持っています。

 ウィングでダウンフォースを増やすとコーナリングフォースは増加しますが、反面走行抵抗も増え直線スピードが落ちてしまいます。
 メカニカルグリップ限界の高い車、つまり重心が低く車体バランスの優れた車はコーナリングが速く、ダウンフォースも小さく設定できる為、直線も速く、また4つのタイヤが仕事を分担するためタイヤも減らない車という事です。

 良い事ずくめのようですが、メカニカルグリップ性能の優れている車はより高速度領域で4輪ほぼ同時にグリップを失う為、滑った時の挙動も速く限界領域のコントロールは物凄くシビアになります。
 言葉の通りカミソリのようにシャープな車となり、ドライバーを選びます。
 メカニカルグリップ限界の低い車は、内外タイヤの負担バランスが悪い事から低速度で外側タイヤがグリップを失う事と、外側タイヤが滑るまで働いておらず余力を残している内側タイヤがグリップを回復するから挙動が緩やかに収束します。

 一般道でドライブする限り気にすることでは無いと思いますが、私はカミソリのようにシャープな車が好きなんです。348GTB、この小さな暴れ馬もいつか乗りこなしてやる。





inserted by FC2 system