徒然なる随筆

4.車のブランドって

 『ブランド』というと、世間の皆さんは何を想像するんでしょうか。
 フェラーリは当然の事として、私はルイ・ビトン、グッチ、エルメス、ローレックス、ブレゲ、パテックフィリップなどなどを思い浮かべます。
 少し嗜好性が偏っていますが、これらは高額商品でありながらその道のパイオニアとしての歴史と伝統があり、根強い固定客に支持されている『スグレモノ』という共通点を持っています。
 そしてこの固定客層に対して一般の人が抱くイメージこそがその商品のイメージになるのです。


 そもそも『ブランド』って牧場主が自分の家畜に押した『焼印』が起源ですから、単なるマークや商標をブランドと呼んでも構わないんです。
 『商標』と言うと、スターバックスやマック・ドナルドなど、更には『無印良品』までブランドと呼べるのかもしれません。
 しかし、自動車が求めなければならない『ブランド』は、明らかに前者『高額商品でも支持される姿』です。
 つまり他のメーカーの車より高額であっても固定客に安定して支持される姿です。
 当然それには論理的な理由があります。

その1;車は売れない

 車という商材は通常1回に1台ずつしか売れません。
 たとえ利益を削って大安売りをしても、『今日はセダンが安いね!じゃぁ色違いで2〜3台貰おうか!』と言うような買い方をする人はいません。
 車を買う時は、法律で駐車スペースの確保が義務付けられているし、車を何台も保管できる駐車スペースを持っている人は限られた方たちですので、どんなに値引きしても普通は1回に1台しか売れません。

 さらに、車は飾っておくだけでは満足感を得られません。乗らなくては。
 車を運転する為には、運転免許証が必要です。
 
そしてその運転免許取得人口は少子高齢化が進む日本では確実に減少していきます。
 つまり車を主体的に使う人の数が減少していくんです。

 車の保有台数も日本自動車工業会の平成17年データで既に世帯保有率78.8%であり、免許証現役が居る世帯の殆どが車を所有していると言う事です。つまり今後の市場増加は望めないんです。

 『中国などの拡大市場があるじゃないか』という人とは根本的に論義の前提条件、立場と言う方が解り易いかもしれませんが、違います。
 私は日本経済の活性化、日本社会の為になる産業と言う視点で書いています。

 経済圏の拡大と共に車の市場は広がります。
 そして自動車産業は裾野の広い産業ですから、その他の産業、例えば鉄鋼、化学、電気、繊維、建材、食品メーカーなどの雇用も牽引する事ができます。
 つまり発展途上国のシェアを上げる為には現地に生産拠点を作り現地で人を雇用して現地の経済を活性化させ、車を買える人を増やさなければ達成できません。
 だから発展途上国への進出は日本経済の空洞化を招く事はあっても活性化には繋がりません。
 企業の海外進出は日本のGNPを拡大させるでしょうが、私が重要視しているのはGDPです。

その2;車を複数所有している人が意外と多い

 一方日本自動車工業会の平成17年報告書には乗用車の複数保有率が38.3%あり増加傾向であるというデータも出ています。
 1家に2台以上車がある。これはどういうことでしょうか。
 その理由は2つあります。
 1つ目は車が無ければ生活できない様な地域では『1人1台必要だから』と言うケース。
 これは生活の道具ですから動けば良いので、軽のように安い車が主流でしょう。
 日本の様な買い手市場では『数を売らないと利益が出ない。値下げしないと買って貰えない車種達』です。
 言い換えると『数を売れない時代に数を売らなきゃ利益が上がらないという矛盾』を含むデフレスパイラルを惹き起こす商品です。

 もう1つのケースがブランド形成にとっては重要です。
 日常生活の為ではないのに2台以上所有している人がいる。これは私もその1人です。
 『好きだから』『欲しいから』頑張って買ったんです。つまり車を日常の道具ではなく自分の生活観を表現する『趣味のもの』と考えているんです。
 この嗜好品という消費動機は欲しければ高価でも買おうとするんです。しかも複数所有で。
 この『高価でも欲しい』と思わせる心理的な潜在パワーこそ『数を売れない自動車が目指すべきブランドパワー』です。

 ここで女性ドライバーの存在についても触れます。
 我々男性は女性が100万円を超えるブランドバッグを欲しいと思う気持ちを理解できません。それはそこに趣味性を感じないからです。
 多くの女性が自動車に求める特性は『動くリビング』だと以前も書きました。
 だから内装素材=家財道具の豪華さに対して趣味性を見いだすケースはあるでしょうが自動車そのものに趣味性を感じる人は少ないでしょう。
 これは『嗜好性をベースとして自動車のブランドを構築する上で女性ドライバーはその対象顧客になり難い』という事です。

 多くの場合我々男性は女性に敵いません。
 自動車を買うとき『二人の自動車』であれば尚、女性の意見を無視できません。
 でも女性は自動車のブランド顧客にはならないんです。
 我々男性の多くがバーキンのバッグのブランド顧客にならないのと同じように。
 数を売ろうとすれば女性の意見に左右されるようになり、その結果自動車はブランド品から遠ざかっていく。
 それが今の現状です。

 女性は自動車にブランド意識を持ちませんから、内装の見栄えがよくて安くないと買おうと思いません。
 自動車メーカーさんは早く自動車として本質的なブランドを確立しないと安売り合戦に巻き込まれ倒産しますよ。
 値引き販売をしないと売れない。数を売らなきゃ利益が出ないのに市場構成上数は売れない。
 そうなると原価圧縮でしか利益を出せないんだから、社員は果てしなく報われない原価低減努力をした後に会社が倒れるという悲劇が起こるんじゃないかと心配です。

 実は女性がターゲットと成り得る自動車のブランドもあります。
 それはベンツの様に高価なヨーロッパメーカーのエンブレムを付ける事です。
 でもこれは女性が自動車そのものに対するブランドターゲットになった訳ではないんです。
 これは、ベンツに乗っている=高価なものを買う能力がある=経済力がある=快適な住環境が確保されると言うように置き換えられています。車のブランドイメージをバッグやファッションなど女性に身近なブランドイメージに置き換えたのです。
 豊かな生活の象徴であればベンツじゃなく別荘でも良いんです。
 豊かな住環境に魅かれる事は『生物として子を産み育てるという役割を持って生まれた女性の本能』だから仕方がありません。
 そしてこれは日本のメーカーだけでは絶対に成し遂げられないブランド構築方法です。

 これが国産車は安い車しか売れないのに、なぜか高価な外車は売れているという今の現状です。

 そんな中、日本メーカーをはじめとして後発であるアジアのメーカーが構築可能なブランドの作り方は2通りあります。
 これはまた今度、時間があるときに書きたいと思いますが、共通して必要な条件は新技術の存在です。



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